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小説や評論を書きつつ短歌も作っている私の読書日記。毎日出会うさまざまな本への思いを中心に、日々の出来事やその感想についても綴ります。おつきあいいただければうれしいです。

渡辺松男「きなげつの魚」

愛読する歌人は多いですが、その中でも五指に入るお気に入りの歌人、渡辺松男さんの歌集です。ひらがなを多用して自然や自分自身をうたう幻想的な歌風が魅力的です。特によかった歌を三首、引用します。

あさやけとゆふやけ孤悲の両翼をたたみて terra に添ひ寝をせむや
 朝焼けと夕焼けに、大地(地球)の両端で添い寝をするようにと促した風景。想像してみると、翼のように大地の両端を彩る太陽の赤さが美しい。「孤悲」は辞書には見つからなかったが、朝焼けと夕焼けを孤独で悲しい存在と見たものだろうか。大地の豊かさや豊饒がその悲しみを癒すのかも知れない。

いくど日は弧をゑがききやわうごんのその弧のなかに一本の松
 太陽は黄金の弧を描いて地球をめぐっている。その弧の中に松の木が一本立っている。松は「松男」の松だろう。世界の弧のなかにいる自分。太陽はその孤独な木を祝福するように幾度でも繰り返しめぐる。枝を黄金の光で染めながら。

蟬が松おほひつくしてはげしかるゆふまぐれどき首の重たき
 これも松は「松男」の松だろう。松の木を覆い尽くすほどの何十匹もの蝉が鳴いている夕暮れの風景。あまりに蝉の数が多いので、松の木=作者は、首が重たいと感じる。鬱陶しさを感じるほど夏の気配が濃厚に感じられる一首だ。蝉たちの烈しい鳴き声が聞こえて来そうである。
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プロフィール

Serenie

Author:Serenie
セリーニーと読みます。東京に住む女性です。
小説や評論を書いています。短歌も作ります。
翻訳の経験もあり、訳書が一冊あります。
趣味は読書のほか、音楽・演劇・美術鑑賞など。

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